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中居正広&フジテレビ攻撃から文春バッシングへ! 人はどうして「キャンセル」に魅せられ、破壊へと突っ走るのか?【仲正昌樹】

キャンセル・カルチャーの真実「破壊することは果たして正義か?」

週刊文春」 2025年2月6日号

 

■「フジテレビは女性を献上していた」という文春ストーリー

 

 キャンセル運動では、問題の焦点がズレながら、話が大きくなっていく傾向があるが、今回は特にひどい。最初は中居氏個人の悪行に焦点が当たっていたが、文春の記事の影響で、フジテレビは単に環境を整えていただけでなく、自発的に女性を献上していた、というストーリーに変わった。しかし、その後、女性を呼んだのは、フジの幹部ではなく、中居氏本人であった、と文春が訂正を出したため、中居氏個人の責任が再びクローズアップされると共に、肝心な点での誤報に対して謝罪しない文春にも批判が殺到した。対応を間違えると、文春自体がキャンセルの対象になりかねない。

 二十七日の“フリーの記者たち”の無法な振る舞いとも相まって、フジテレビに対する同情の声も広がり、キャンセルの勢いは少し弱まったが、依然として、フジテレビ上層部が今回の問題にどのように関与しているかはっきりしないまま、ゴールポストが見えないフジ攻撃が続いている。

 文春の誤報によってフジ解体が難しいという雰囲気になったせいか、日枝代表が諸悪の根源であるという前提で、同氏をグループの全ての役職から解任することに照準を合わせる声が目立ってきた。組織自体を潰せないなら、せめて真のドンを生贄にしようとするかのように。そこに、かつてフジテレビの筆頭株主であったニッポン放送を買収することでフジテレビを支配・再編しようとして、日枝氏と争った堀江貴文氏まで介入し、余計にカオスな状況になっている。

 何が解明すべき事実であるかブレているにも関わらず、「フジテレビを潰せ」という声がどんどん増幅するこの騒ぎは、ある意味、統一教会騒動に似ている。統一教会問題については、BEST TIMESのいくつかの記事(修正を加えたうえ、拙著『ネットリンチが当たり前の社会はどうなるか?』に再録)で論じたので、詳しくは繰り返さないが、山上徹也容疑者の安倍晋三元首相殺害は誰のせいか、という話から始まって、教団と自民党の関係、アメリカや韓国の諜報機関との関係、北朝鮮への送金、信者に対するMCをめぐる様々な憶測が飛び交い、解散が当然という流れになった。

 

ネットリンチが当たり前の社会はどうなるか?』仲正昌樹著

 

 実際にどういうことをやっているのか詳しいことは分からないが、あれだけ噂があるのだから、相当ヤバイことをやっているに違いない、という先入観が強く働いているので、何かの“新情報”があるたびに、真偽の確認が全然なされていなくても、新たな炎上の燃料になってしまう構図が似ている。事実と違った報道がなされても、どうせこいつらそれと大して違わないことを散々やってきたのだから、この程度の誤報なんて大したことない、という感覚なのだろう。

 フジテレビ自身、統一教会に対してそれを散々やったわけだが。一月二十三日のフジテレビの社員説明会では、このままでは会社が潰れる、子供が虐められる、といった不安の声があがったというが、これは統一教会の信者たちが二二年の秋以降ずっと感じてきたことである。

次のページテレビ業界が生き残るための生贄と化す〝極めて皮肉な事態〟

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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